もの忘れ
もの忘れ

もの忘れは、誰もが年齢とともに経験する症状です。しかし、すべてのもの忘れが加齢による自然な変化というわけではありません。なかには、認知症・軽度認知障害(MCI)・正常圧水頭症・慢性硬膜下血腫など、早期に診断・対応することで症状の改善や進行抑制が期待できる疾患が隠れていることもあります。
「年のせいだから仕方ない」と決めつけず、気になる症状があれば早めに専門医にご相談ください。
ご本人・ご家族で、以下のような症状に心当たりがある場合は、一度ご受診をご検討ください。
特に歩行障害・尿失禁・もの忘れが三つ重なる場合は、正常圧水頭症の可能性があります。また、頭部への打撲・転倒のあとにもの忘れや頭痛が現れた場合は、慢性硬膜下血腫が疑われます。
いずれも適切な処置で改善が期待できる疾患のため、早めの受診が重要です。
加齢による脳機能の変化
年齢を重ねると、脳の情報処理速度や記憶を取り出す力が少しずつ低下します。これは自然な老化現象であり、日常生活に大きな支障をきたさない範囲のもの忘れであれば、病気ではないとされています。
脳の神経細胞の変性・萎縮
アルツハイマー型認知症では、脳内に異常なタンパク質(アミロイドβ・タウタンパク)が蓄積し、記憶をつくる働きを担う「海馬」を中心に神経細胞が徐々に壊されていきます。発症の10〜20年前から脳内での変化が始まると考えられており、早期発見・早期対応が重要とされています。
脳血管の異常
脳梗塞や脳出血などが脳の認知機能に関わる部位で起きると、もの忘れや判断力の低下が生じることがあります。生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質異常症など)による動脈硬化が背景にあることが多く、再発予防のための内科的管理が重要です。
脳の圧迫・構造的な問題
脳脊髄液(脳と脊髄を守る液体)が脳室に過剰に貯まることで脳が圧迫される「正常圧水頭症」や、頭を打った後に頭蓋骨と脳の間に血の塊が生じる「慢性硬膜下血腫」では、もの忘れの症状が現れることがあります。この場合、打撲から時間が経っており、それが原因という思いが至らない場合もあるので、注意が必要です。急に物忘れが始まったり、脳梗塞ではないかと疑われる場合の中に、この病態が含まれていることがあります。検査ですぐにわかりますので、様子をみずに受診してみましょう。
内科的・精神的な要因
うつ病・睡眠障害・甲状腺機能低下症・ビタミンB12欠乏・貧血・脱水などによって、集中力や記憶力が低下し、もの忘れのように見える症状が現れることがあります。
軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)
加齢によるもの忘れと認知症の中間にあたる状態です。記憶力など認知機能の低下が見られますが、日常生活への支障はほとんどありません。MCIと診断された方のうち、約半数が5年以内に認知症へ移行するとされていますが、この段階で適切に対応することで、認知症の発症を遅らせることが期待できます。
アルツハイマー型認知症
認知症の中で最も多いタイプです。記憶をつくる働きを担う海馬が障害されるため、「新しいことが覚えられない」「最近の出来事を丸ごと忘れる」という症状から始まるのが特徴です。徐々に判断力・理解力・見当識(時間・場所・人物の把握)にも影響が及び、日常生活への支障が広がっていきます。症状の進行を遅らせる薬物療法が存在するため、早期診断・早期対応が重要です。
脳血管性認知症
脳梗塞・脳出血などの脳血管障害によって起こる認知症です。障害された脳の部位によって症状が異なり、認知機能が部分的に保たれる「まだら認知症」が特徴のひとつです。アルツハイマー型認知症と合併しているケースも少なくありません。脳卒中の再発予防・生活習慣病の管理が、進行抑制の鍵となります。
レビー小体型認知症
実際には存在しないものが見える「幻視」や、手足の震え・歩幅が小刻みになるなどの「パーキンソン症状」が特徴です。調子の良い日と悪い日の差(変動する認知機能)が大きいことも特徴のひとつで、アルツハイマー型認知症との鑑別が重要です。
前頭側頭型認知症
人格・行動・言語に関わる症状が先に現れ、初期には記憶力は比較的保たれていることがあります。感情の抑制がきかなくなる・社会的なルールを守れなくなる・同じ行動を繰り返すなどの症状が見られます。比較的若い世代(65歳以下)に発症することもあります。
正常圧水頭症
脳脊髄液が脳室に過剰に蓄積し、脳を圧迫することで起こります。「歩行障害(小刻みでふらつく歩き方)」「尿失禁・頻尿」「もの忘れ・ぼんやり感」の三つが主な症状です。加齢によるものや他の認知症と間違えられやすいですが、シャント手術(脳脊髄液を別の場所に流す処置)によって症状の改善が期待できる疾患です。当院の脳神経外科では、この正常圧水頭症の診療を行っています。
慢性硬膜下血腫
頭を打ったあと、数週間から3ヶ月程度経ってから頭蓋骨と脳の間に血の塊が生じ、脳が圧迫される疾患です。もの忘れ・頭痛・片側の手足の脱力・呂律の回りにくさなどの症状が現れることがあります。軽い転倒や打撲がきっかけになることもあり、本人が覚えていない場合もあります。手術的処置(血腫の除去)によって症状の改善が期待できます。最大の特徴は、この病態特有の症状はないということです。数週間前に頭部打撲をきたした場合、この病態を疑ってみることが診断への第一歩です。
うつ病・甲状腺機能低下症などの内科的疾患
うつ病では意欲・集中力・記憶力が著しく低下し、一見認知症と似た症状(「仮面認知症」とも呼ばれます)が現れることがあります。甲状腺機能低下症やビタミンB12欠乏でも記憶力の低下が起こることがあり、血液検査による鑑別が重要です。
もの忘れの原因が脳や神経にある場合は、脳神経内科や脳神経外科の受診をお勧めします。当院では認知症認定医が専門的に診療しており、認知機能検査や頭部MRI検査を含めた詳細な評価が可能です。
また、正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫など外科的な処置が必要な場合は、適切な専門施設をご紹介いたします。お気軽にご相談ください。
最も大きな違いは「体験した出来事を丸ごと忘れているかどうか」です。加齢によるもの忘れは、体験の一部(例:夕食のメニュー)を忘れても、食事をしたこと自体は覚えています。ヒントがあれば思い出せることも多いです。一方、認知症では食事をしたこと自体を忘れ、ヒントを出しても思い出せないことが特徴です。
はい、ご家族に連れられてのご受診も歓迎しております。認知症の初期では本人にもの忘れの自覚がないことが多く、ご家族が異変に気づくケースが少なくありません。診断にはご家族からの情報がとても役立ちますので、できるだけご同席いただけると助かります。
はい、あります。うつ病・睡眠不足・甲状腺機能低下症・ビタミンB12欠乏・貧血・ストレスなど、さまざまな内科的・精神的要因によってもの忘れが起こることがあります。これらは血液検査などで原因を特定し、適切に治療することで改善が期待できます。
まず、いつからどのような症状があるかを詳しく伺います。その後、認知機能検査(改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)や MMSE など)と神経学的診察を行います。必要に応じて血液検査(甲状腺・ビタミン・血糖など)や頭部MRI検査を実施し、脳の萎縮・脳梗塞・脳腫瘍・血腫の有無などを確認します。
完全な予防は難しいとされていますが、生活習慣の改善によってリスクを下げることはできると考えられています。高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病の管理、適度な運動、禁煙、バランスのとれた食事、良質な睡眠、社会的なつながりを保つことなどが、認知症予防に有効とされています。また、MCIの段階での早期発見・対応が、認知症への移行を遅らせる可能性があるとされています。
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